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[第2回] 達人出版会 高橋征義の ITエンジニア向けおすすめブックガイド

今回のゲストブログは、先月から連載を開始した、達人出版会 代表取締役社長であり、日本Rubyの会代表理事である高橋征義さんの、「 ITエンジニア向けおすすめブックガイド」です。 ITエンジニアの方のために、最近出版されたコンピュータ書(紙書籍または電子書籍)を中心にご紹介していただいています。今回も、データ分析から国家と政治まで、幅広くご紹介いただきました。(2015年7月30日)


 

みなさんこんにちは。高橋征義です。

すっかり暑さが増してきて、じっとして本を読んでいるのも冷房がないと辛い季節になってきましたが、今月も最近出版されたコンピュータ書(紙書籍または電子書籍)を中心としたブックガイド的な記事をお届けします。
 

青木峰郎 著 『10年戦えるデータ分析入門』(SBクリエイティブ)

今回最初にご紹介したいのは、青木峰郎さん久々の新刊です。

青木峰郎さんの新刊は2009年の『ふつうのコンパイラをつくろう』以来ですね。表紙の雰囲気は異なりますが、サイズは「ふつうの〜」シリーズと一緒の単行本サイズなのは、これまでのシリーズの愛読者にはうれしい感じです。

タイトルは「データ分析入門」となっていますが、内容としてはSQLの使い方・SQLを中心としたデータ分析システム(いわゆるデータウェアハウス)の構築についての本になっています。なぜデータ分析にSQLなのか? というのは第1章で書かれていますが、要は「分析者と開発者がSQLを使えるといろいろ都合がいいし、実際可能だから」というのが著者の主張になっています。

とはいえデータ分析のためのSQLなので、通常のアプリケーションで利用するSQLとは異なり、参照系のSQL(SELECT)の使い方が中心で、実行時間も長くても構わないのが特徴的です。

Web系やエンプラ系のアプリケーション開発をされていて、アプリで叩くSQLだったらだいたいわかるから今さら本は読まなくても…という方は、とりあえず第8章のウィンドウ関数のところを読んでみるといいかと思います。私は本書で初めて知ったのですが、ウィンドウ関数は超便利そうなので、これの使い方をマスターするだけでも本書を読んだ価値がありそうです。また、第10章で、実際のアクセスログをSQLで分析するところも、著者が得意とする実践的な説明になっていて参考になります。

逆に、データ分析についてある程度知識はあるけどSQLははじめて、という方が読まれる場合、もう一冊SQLの簡単な本があった方が挫折しなくてよいかもしれません。

なお、第2部「分析システムの構築」については、全体の2割程度のボリュームしかないせいか、ざっくりとした話とTipsに寄っている感があり、正直もうちょっと具体的な話があった方がよかったかなという気もしなくはないです。が、分量的にはこのくらいで抑えておいた方が気軽に読みやすいというのもあり、致し方ないところかもしれませんね。

いずれにしても、SQLの使い方からデータ分析システムまで、幅広い題材を手頃なサイズの一冊に詰め込んだお得感はあります。「ほ、ほんとにSQLでデータ分析できるの……?」という方も、一読してみるとよいでしょう。


10年戦えるデータ分析入門 SQLを武器にデータ活用時代を生き抜く (Informatics &IDEA)

著者 : 青木峰郎
出版社: SBクリエイティブ
発売日: 2015/6/30
出版社ページ http://www.sbcr.jp/products/4797376272.html
サポートページ http://i.loveruby.net/stdsql/
 

あんちべ 著『データ解析の実務プロセス入門』(森北出版)

続いてもう一冊、データ分析(を含めたデータ解析プロセス全般)の本のご紹介です。

森北出版の本を紹介するのはめずらしいことになりそうというか、最近はあんまり読んでないので新鮮さを感じます。というか、大変失礼ながら森北出版の本としては表紙がかっこいいというか、ぐっと垢抜けている気がして手に取りやすい(手に取られやすそう)な本になっていて、気合いが入っているようです。

『10年戦えるデータ分析入門』の方は、開発担当者とマーケティング担当者の両方をターゲットとしている書籍だと思いますが、本書の方は「データ解析担当者」という独立したロール(役割)の人をターゲットとしているように読めました。とはいえ、入門者向けで予備知識なく読めるようになっているため、普通に開発を行っている人や企画を行っている人にとっても、データ解析者がどういった考え方をしているのか、どういう武器でどういうことをしていくのか、といったことを知る上で役に立ちそうです。

また、上記の『10年戦える〜』では主にデータを集計・加工するところまででしたが、本書ではそれ以前の「そもそも何を目的とするか」から始まり、「どういう風に見せるのか」「どうやって運用するのか」といった、一般的な分析業務のプロセス全体まで考えられていたり、具体的な分析(第6章のテキストマイニングや第7章のデータマイニング)やその実践例(第8章)まで触れているなど、「実務プロセス入門」というタイトルの通り、内容は多岐に渡っています。とはいえ本書はあくまでデータ解析を行ったことのない入門者向けの本であるため、詳しく掘り下げるのは他書を参照してもらうことが前提の「足掛かりとなる情報を紹介すること」(本書まえがきより)を目指して書かれています。

個人的には、「第3章 良きデータ」の「3.15 データクレンジング」で、突然AWKが出てくるところには、なんとなく現場の生々しさを感じました。確かにこういう用途だと便利ですよね、AWKって。AWKは私が初めて触れたスクリプト言語で、今でも時々使っているので親近感を覚えました。ばりばりのデータ解析屋さんから見ると色々気になるところもあるのかもしれませんが、そうでない人にとっては興味深く読める一冊だと思います。


データ解析の実務プロセス入門

著者 : あんちべ
出版社: 森北出版
発売日: 2015/6
出版社ページ https://www.morikita.co.jp/books/book/2851
サポートページ https://github.com/AntiBayesian/DataAnalysisForPractice/
 

Ruby on Rails Community 著『Railsガイド』(達人出版会)

さて今月も手前味噌ながら、私の会社の達人出版会で刊行した書籍を紹介させてください。

本書はいわゆる「Guides」こと、Ruby on Rails Guides(http://guides.rubyonrails.org/)のコンテンツを日本語に翻訳したサイト、Railsガイド(http://railsguides.jp)を電子書籍化したものです。

このサイトはRailsの公式ドキュメントで、MVCそれぞれの機能や使い方から、テストやデバッグ、セキュリティに関する情報やアップグレードガイドまでを説明した、チュートリアルとリファレンスの間をつなぐようなサイトになっています。Railsガイドは相当なボリュームがあるので、その電子書籍版である本書も1000ページを超す大ボリュームの一冊となりました。

普通にRailsでアプリを開発する際には、Webにあるドキュメントを読まないことはおおよそないでしょうし、ネットで検索するとGuidesが引っかからないことはまずないと言っていいでしょう。それだけに有名かつ有用なドキュメントとして、Rails界隈では広く知られているのですが、英語だけではスルーしてしまう人も少なくなかったかもしれません。railsguides.jpと本書は、そこを解決するべく、すごい翻訳力とすごい技術力を投入して作られたものです。後者について詳しくは、本書の中心人物の一人である安川さんが発表された「Railsガイドを支える技術」(https://speakerdeck.com/yasulab/railsgaidowozhi-eruji-shu-30fen-ban )も合わせてご覧ください。

さて本書の内容に関しても書いておくと、RailsでWebアプリケーションを開発する際に必要になるRailsの知識が網羅されたドキュメントです。正直Railsやるなら「いいから黙った読め」と言いたくなるクラスのものですね。さすがに外部のgemの話や、コードの書き方・Webアプリケーションの設計といった話や、Railsの細かいtipsや実装面での話は載っていないこともあるわけですが、Railsで開発するには多かれ少なかれ本書で書かれたことを知っておくか、忘れた時には読み返して思い出すことが必要になるはずです。その意味で、ネットで全部読むのはちょっと、という方は、ぜひ電子書籍版を読まれると良いかと思います。

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Railsガイド

著者 : Ruby on Rails Community(著)/八田 昌三 金子 雄一郎 安川 要平 大城 佳明 宮城 正栄(訳)
出版社: 達人出版会
発売日: 2015/7/11
出版社ページ http://tatsu-zine.com/books/railsguides
 

川上量生 著『鈴木さんにも分かるネットの未来』(岩波書店)

森北出版も意外ですが、次はさらに意外な岩波書店から出た書籍のご紹介です。

本書の元となったのは、初出が「熱風」というスタジオジブリが刊行している小冊子に掲載された原稿だそうで、これを書籍化したものが本書です。なので、このタイトルにある「鈴木さん」とは、ジブリの鈴木敏夫氏のこと、だそうです。そして本稿を読まれてる方には今さら言うまでもないとは思いますが、本書著者の川上量生はドワンゴの会長兼KADOKAWA・DWANGOの社長で、ジブリにも所属されている方です。

そんな背景から分かる通り、タイトルにも「ネットの未来」とありますが、ネットの技術的な未来についての書籍ではありません。目次を見ても明らかな通り、本書は「コンテンツ」に寄っています。つまり、ネットとコンテンツの関係の未来について書かれた本なのです。以前某所で本書について、「卸・小売業者がメーカーの人向けに商圏の客層について説明するというスタンスの本」と説明したことがあるのですが、私はそんな印象を受けました。

とはいえ、コンテンツそのものに関わっていない人でも、ネットの技術に興味があるなら本書は読んで損はないでしょう。そもそもネット、特にWebやスマートフォン等からなるネットワークは現代の重要なメディアの1つでもあり、CGM/UGCも含めて「コンテンツ」の集積と配信という機能を担っています。ネットにおける技術の進化と利用は、メディアとしてのそれを利用するコンテンツとも無関係ではないわけです。

一方で、本書の見解をネットのあらゆることに敷衍(ふえん)するのも無理があるでしょう。例えば本書で書かれている、インターネットのビジネス上の本質は安売りにある、といった見解は、一面の事実ではありますが、そこで行われているのは単なるディスカウントだけではなく、国内外や地域間の価格差を利用したものであったり、コミュニケーションコストを排除したために得られているといった側面もあります。まあ、鈴木さんにはあんまり関係ないからその辺りは触れていない、ということかもしれませんが。わかりやすさを重視しているため、良く言えば大胆な、悪く言えば大雑把な議論になっているところもありそうです。

そんな側面もありますが、というよりもむしろ、そんな側面があるからこそ、本書はネットとのコンテンツの関係を考える上での叩き台として大変優れた一冊だと思います。教科書のように読むのではなく、読んだ上で内容について考え、議論しながら消化したい本です。


鈴木さんにも分かるネットの未来 (岩波新書)
著者 : 川上量生
出版社: 岩波書店
発売日: 2015/6/19
出版社ページ http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN4-00-431551

 

東 浩紀 監修『角川インターネット講座 (12) 開かれる国家 境界なき時代の法と政治』(KADOKAWA/角川学芸出版)

最後のご紹介するのは、「角川インターネット講座」の中から『開かれる国家 境界なき時代の法と政治』です。

「角川インターネット講座」のようなコンピュータ関係の叢書が出るのは久々だそうで(確かにそうかも)、諸方面から期待と不安を集めたシリーズだそうですが、今のところ玉石混交ながらもいろいろ興味深いシリーズとなっているような気がします。

本書はその12巻、国家と政治を巡る論考を集めたものです。監修者は東浩紀さんで、序章は東さんが書かれていますが、それ以外は(おそらく東さんが選んだかと思われる)方々からの寄稿によって構成されています。

で、この種の叢書の書籍では、基本的には前向きというか、何かしらのポジティブなイメージで書かれている本が多いかと思うのですが、本書は大変ペシミスティックというか、ほろ苦い読後感が強く残りました。これは、第1部の第1章第2章で描かれた、ネットと政治の可能性についての非常に魅力的な「夢」に対して、それ以外の章で描かれる現在の「現実」との間にあまりにもギャップがある、そのような見取り図が冒頭の序章で描かれて、実際読んでみるとその通りにしか読めない、というある意味で完璧な序章になってしまっているせいでもあります。

また本書最後の第7章、白田秀彰さんによる「情報時代の憲法」でも、情報時代の政治についての「理想」に対し、歴史を踏まえた日本の体制と立法の「現実」を対比させ、序章と対になるかのような苦い幕の閉じ方をしているのも印象的です。第1部の「夢」の壮大で楽観的なトーンと、最初と最後の狙ったかのような悲観的なトーンの揺れ幅が何とも言えないものとなっています。

個人的には第4章のデータ駆動型政治について、もう少し掘り下げたところを知りたかったのですが、この短い分量では限界があるのかもしれません。それはさておき、内容そのものよりも、この曰く言い難い読後感をお伝えしたいと思って、今月の最後の一冊に入れてみました。


角川インターネット講座 (12) 開かれる国家 境界なき時代の法と政治

監修 : 東 浩紀
出版社: KADOKAWA/角川学芸出版
出版社ページ http://kci-salon.jp/books/12/
 

おわりに

『角川インターネット講座』は他にも取り上げたい巻もあるのですが、時期を逸してしまったものも多いので、ネタに困ったときに取り上げたいと思います(既刊の中での私的ベストは、今回取り上げた川上量生さんが監修された第4巻『ネットが生んだ文化 誰もが表現者の時代』です)。

それではまた来月お会いしましょう。

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